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婦人科におけるゲノム医療と遺伝学的検査

ゲノム医療

 ゲノムとは「全て(-ome)+遺伝子(gene)」を意味する造語で、DNAに含まれている遺伝情報全体を意味し、人体を構成する設計図のようなものと考えられます。
近年網羅的にこのゲノム情報を調べることが可能になってきて、疾患と遺伝情報の関係性が急速に解明されてきつつあります。最新の医学ではどの診療科領域でもゲノムとの関連を避けることはできないと考えられています。

婦人科におけるゲノム医療

 婦人科においてもゲノムとかかわりがある領域は多数あります。当科の診療内容では
  1. 生殖内分泌領域の受精卵着床前検査(PGT:Preimplantation Genetic Testing)
  2. 婦人科腫瘍領域のがんゲノム医療(HRD・BRCA・MSI等のコンパニオン診断、がん遺伝子パネル検査)
この2領域において臨床的実装が始まっています。

着床前遺伝学的検査(PGT:Preimplantation Genetic Testing)
PGTは体外受精によって得られた受精卵を移植前に検査する様々な検査の総称です。PGTは目的ごとに3種類に分類されています。通常胚盤胞という受精卵の状態で、その外側の部分から採取した細胞を、次世代シークエンサーという特殊な機器を用いて解析する手法です。

PGT-A
染色体の異数性の検出を目的とします。移植前の胚の染色体数を網羅的に検査する方法です。
PGT-SR
染色体の構造異常に由来する染色体の部分的な過剰や欠失の検出を目的とします。
PGT-M
特定の遺伝性疾患の原因となるDNA変化の検出を目的としています。

染色体数に異数性(過不足や構造異常)があると移植した際に着床率が低下したり、流産率が上昇したりする可能性が指摘されています。異数性のない受精卵を優先的に移植することによって着床率の向上や流産率の低下が期待されています。
ただ倫理的な問題を含む領域であることや、検査のための細胞採取による胚盤胞へのダメージの評価(胚への安全性には問題が無いとされています)や、胚が異数性のものだけだった場合の移植の推奨度等様々医学的な評価も未確定な部分があると考えられています。
日本産科婦人科学会ではこれらの未確定な部分を高い質的レベルで評価する目的から現時点では臨床研究の範囲での取り扱いとして、PGT検査3種類それぞれ医療機関に臨床研究倫理申請と参加承認認定を検査実施の必須要件として求めています。
当院ではPGT-A、PGT-SRに限定して実施の倫理申請と参加承認・認定を行っています。
臨床研究としての実施ですので、対象症例(反復ART不成功、習慣流産、染色体構造異常等)の基準や除外基準が存在します。希望される全ての患者さんが検査を受けられるわけではありません。また検査前に遺伝カウンセリングも必要となります。当科生殖内分泌外来を受診時にご相談ください。
PGT-Mについては実施に対する倫理申請は行っていません。そもそもこの検査を必要とするということは、ご夫婦どちらかがその遺伝疾患の患者さんか保因者であるケースが殆どということになります。このような場合は妊娠が成立しても妊娠管理や出生後の児の管理に専門的な設備や施設が必要となる場合が多くなります。このような問題を勘案しますと生殖医療の段階から分娩に至るまでNICUやMFICUを持つ高次医療機関(大学病院等)で一貫した医療を受けられることを推奨します。


がんゲノム医療
今までがんは発生した臓器や病理組織型によって治療方が法選択されていていました。
近年、腫瘍学の進歩により、がんの発生に関する遺伝子変異の関与が解明されてきています。
変異することでがんに結びつくと考えられる遺伝子(がん遺伝子、がん抑制遺伝子)が、数百個発見され、がんが発生するメカニズムが解明されてきています。
この進歩によって、種々の分子標的薬が開発され、同時にコンパニオン診断やがん遺伝子パネル検査などの遺伝子検査技術が飛躍的に進歩してきています。このような原因となる遺伝子変異に基づいて治療を行うがんゲノム医療が婦人科悪性腫瘍領域でも普及しはじめています。

分子標的薬とコンパニオン診断
1990年以降がんを治療する手段として、分子標的薬という分類の薬剤が登場しました。がん細胞が変異した遺伝子の情報をもとに、様々な異常な働きをするタンパク質を作ることが判ってきています。この異常なタンパク質を標的として、その働きを妨げることによってがんを治療することから分子標的薬と言われています。
分子標的薬が標的とする異常タンパク質は、そもそも遺伝子変異によって作られます。従ってがん細胞の中に対応する遺伝子変異があるかどうかを診断することが重要になってきます。
つまり「対象となる遺伝子変異の有無を調べる」ことが「特定の分子標的薬の効果や副作用をあらかじめ評価できる」ということになり、これをコンパニオン診断と呼びます。
分子標的薬の保険治療とセットで行われるコンパニオン診断は2011年ごろから普及しはじめ、婦人科領域では、卵巣がん・腹膜がんのHRD検査・BRCA遺伝子検査、固形がん全般が対象のMSI検査などの遺伝学的検査が保険収載されています。
現在のところ患者さん自身の診断なので、説明は主治医が行うことになっていますが、患者さんが希望された場合、遺伝性腫瘍が示唆される結果であった場合のご家族の相談や検査は、臨床遺伝専門医が行うことになっています。(当院は当科三島医師(遺伝相談科主任部長)が担当します。)

現在婦人科悪性腫瘍領域で使用できる分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬は、以下のとおりです。
  • 血管新生阻害薬ベバシブマブ(アバスチン):子宮頚がん、卵巣がん・腹膜がん
  • PARP阻害薬オラパリブ(リムパーザ):卵巣がん・腹膜がん (一部BRCA遺伝子検査が必要)
  • PARP阻害薬ニラパリブ(ゼジューラ):卵巣がん・腹膜がん (一部HRD検査が必要)
  • オラパリブ+ベバシズマブ(パオラメソッド):卵巣がん・腹膜がん (全例HRD検査が必要)
  • 免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ):子宮体がん (全例MSI検査が必要)
  • チロシンキナーゼ阻害薬レンバチニブ(レンビマ)+免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ):子宮体がん
上記の太文字の薬剤使用にはコンパニオン診断が必要とされる場合があります。

がん遺伝子パネル検査
がん遺伝子パネル検査は多数の「がん関連遺伝子変異」を一度に調べる検査です。ここでも次世代シークエンサーといわれる機器が使われています。
既にがん遺伝子パネル検査はがんゲノム医療の最先端国であるアメリカではかなり積極的に導入されていますが、日本でも2019年に保険適応となりました。
使用する摘出組織検体(患者さんのがん組織検体)の保存状態によって結果が変化してしまうため、あらかじめ規則に沿って適正な保存処理がされていることが保証された指定病院だけが検査を実施することができます。
また結果の解析にも専門的な遺伝学的知識が必要とされる場合が多いため、現在は全国13か所※のがんゲノム中核拠点病院とその拠点・連携指定病院だけに限られます。

北海道大学病院が中核病院となり、当院を含む10施設が連携病院として指定を受けています。※

※令和5年4月1日現在


札幌厚生病院はがんゲノム連携病院・地域がん診療拠点病院であり、婦人科はがんゲノム相談室室長・遺伝相談科主任部長を兼務していることから、がんゲノム医療の中心的役割を担っています。

最終更新日:2024年04月22日

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